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第14話 その優男、ご乱心ですか?

last update publish date: 2026-07-03 16:30:37

「「はあ?」」

何だそれは?

ウェルシェはケヴィンを好きだと言ったことは一度もない。あまりに意味不明すぎてる。ウェルシェもエーリックも思考回路がショート寸前だ。

「それじゃあ、私とランチにしよう」

だが、ケヴィンは自分の妄言を信じて疑っていないようだ。妖しい紫水晶アメジストの瞳に微笑みを湛え、ウェルシェを誘う。

「いい加減にしてくださいまし。私は婚·約·者·のエーリック様と会食をしている最中なのです。少しはご遠慮いただけませんの?」

今までのように、やんわり断っていてはケヴィンには自身の意思が伝わらない。ウェルシェは婉曲えんきょく表現を避けて、口調に棘を含めてはっきりと拒絶した。

「ああ、君はエーリック殿下に遠慮しているんだね」

だが、それでもケヴィンにはまったく通じていない。

「あのぉ、ケヴィン様の仰っている意味が理解できないのですが……私の方がおかしいのでしょうか?」

「安心してウェルシェ。僕にもさっぱり分からないよ」

これだけ拒否されていながら、どうしたらそんな発想になれるのだろう。あまりに斜め上のケヴィンは異次元の生物としか思えない。

「ちゃんと分かっているよ。君は私が好きなんだろ?」

唖然としてできた隙にケヴィンが突然ウェルシェの手を取った。

「ちょっ!? 勝手に淑女の手を掴まないでくださいまし!」

恋人でもない女性の手を許可なく触るケヴィンに、何だこの気持ちの悪い男は、とウェルシェの背筋にぞわわわっと寒気が走る。

理屈の通らない生き物はウェルシェにとって気味が悪い。ケヴィンに対して生理的嫌悪しか沸いてこない。

「僕の婚約者に断りもなく触れないでください!」

ケヴィンの手を乱暴に払い除け、エーリックはウェルシェを庇うように間に入った。

「権力で想い合う二人を引き裂く野暮な方だ」

「この際だからはっきり申し上げておきます」

もはやウェルシェの我慢の限界も臨界点突破である。

「私はエーリック様をお慕いしているのであって、ケヴィン様に欠片も想いを抱いた事実はございません」

「ケヴィン先輩、さすがに僕も不愉快です。あまりウェルシェを困らせないでください」

エーリックはおっとりしているし、学園で猫を被っているウェルシェは深窓の令嬢と目されている。その二人が揃ってここまで不快感を露わにするのは珍しい。

周囲の生徒達はウェルシェとエーリックの怒気に固唾を飲んで事の成り行きを見守った。

「ああ、なんて事だ!」

ところが、ケヴィンは大袈裟な身振りで急に嘆き始めたではないか。

「エーリック殿下に無理強いされて好きでもない相手を好きと言わされるなんて!」

大きな声で右に左に向きながら芝居じみた仕草で叫ぶので、ウェルシェはケヴィンがとうとう狂ったかと眉を顰めた。

「何を仰ってますの。私はエーリック様に強要などされていませんわ」

「いったい何を根拠に僕がウェルシェを脅していると言うのですか!」

「アイリスが教えてくれたんだ」

アイリス?

誰それ??

ウェルシェとエーリックは二人並んで同時にコテンと首を傾げた。どこかで聞いたような気もするが思い出せない。

「エーリック殿下は意に添わぬ婚約者で、ウェルシェが本当に愛しているのは私だそうじゃないか」

「まったく事実無根ですわ!」

「僕達の関係は上手くいっているよ!」

金にもならない勘違いヤローを好きだと思われるのは心外だ。こんな頭も緩そうな無能をグロラッハの当主に迎えたら領地が秒で崩壊しかねない。

「まったく、見ず知らずの方が良く知りもしないで酷いですわ」

利と理をこよなく愛するウェルシェにとって1ミリもメリットの無い相手に懸想したと思われるなどとんでもない風評被害だ。

「いったいそのアイリスとはどなたですの?」

自分を貶めているのは何処のどいつだとウェルシェはお冠だ。

「知らないのかい? 『スリズィエの聖女』で有名だけど……オーウェン殿下の真なる想い人さ」

――あのピンク頭か!

オーウェン殿下の浮気相手、男達を侍らせるバッタもん聖女様――アイリス・カオロである。

「お待ちください。私はアイリス様とは面識がございませんわ」

「そうですよ。そんな令嬢にどうして僕達の仲を疑われなきゃならないんです」

「良く知りもせずに酷いですわ」

「根も葉もない虚言を流布するのはさすがに問題ですよ」

二人は猛抗議した――が、ケヴィンはまったく聞いていなかった。

「ああ、王家の力でむりやり婚約を結ばされた可哀想な姫君よ。この私がきっと君を真実の愛で救ってみせよう」

「――!?」

しかも、聞く耳を持たずケヴィンは自己陶酔している。しかも、かなり際どい物言いだ。王家の取り決めが不当であると言っているようなものなのだから。

「それは王家への批判ですの!?」

「問題発言ですよ!?」

国への反意とも捉えられかねない発言に、ウェルシェとエーリックはギョッとした。

「騒がしいぞ!」

その時、一人の男子生徒が割って入った。

「いったいそこで何をやっている?」

それはエーリックに似た金髪碧眼の美少年だった。

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